受託研究 「高レベル廃液貯槽での水素濃度蓄積の評価

NPO 科学技術社会研究所は2005年度から標記の内容で日本原燃から研究を受託してきました。これまでに得られた成果を紹介します。 発表論文の ABSTRACT ここから見ることができます。




研究の目的

核燃料再処理工場で使用済み燃料を硝酸に溶かしてUやPuを分離した後に出る廃液は、ガラス固化処理する前に貯槽に貯めておかれます。この廃液は高い放射能を持った硝酸溶液なので、自らの放射線で照射されて水素が発生します。貯槽は常時掃気されているので水素が貯槽内に溜まることはありませんが、停電などによって掃気が止まるようなことがあると、水素が溜まることを心配しなくてはなりません。

これまでの知識:純水中に放射線照射で生成した H2 は二次的な反応で無くなる。

水に放射線が照射されると、H2Oが分解して水素と酸素になります。
   
H2O → H2 + 1/2 O2      (1)
しかしこの水素は、同じく水の放射線分解の中間生成物であるOHラジカルと二次的に反応して水に戻ってしまうことが知られています。
   
H2 + OH → H2O + H      (2)
こういうことのために、例えば軽水炉の炉心では元々は水素が多量に発生しているのですが、外部に出てくる水素はそれほど多くないことが原子炉工学で既に良く知られているところです。
高レベル廃液でも同じように考えて良いのだろうか?という問題です。

研究成果(1) 濃硝酸溶液では生成した H2 は無くならないこと。

硝酸溶液では、放射線照射で元々生成するH2の量は純水に比べて少なく、かつ純水の場合と同じように(2)式のような反応で消えてしまうと考えられていました。
しかし1M程度以上の濃い硝酸水溶液では、打消し線部分の認識は誤りであることを私たちは明らかにしました。濃い硝酸溶液の中では、(2)式に現れているOHラジカルが硝酸と反応してしまって、実際には無いためと考えられます。
   
OH + HNO3→ H2O + NO3   (3)

研究成果(2) 模擬高レベル廃液では生成した H2 はPdの触媒反応によって無くなること。

高レベル廃液は、硝酸溶液なので放射線照射でH2が発生しますが、このH2は硝酸溶液の場合と違って無くなってしまうことを見出しました。
ここでH2が無くなる反応は放射線化学的なものではなく、廃液の中に核分裂片の一つとして含まれているPdイオンが触媒となって H2 を酸化していることも明らかになりました。硝酸パラジウムの溶液中でも同じ反応が起こることが確認され、詳細な実験の結果、この反応に直接関与しているのは Pd++に亜硝酸が一つ配位した化合物であることも明らかにされました。推定される反応式は次のようなものです。
   
Pd(NO2)+ + H2→ H2O + NO- + Pd++  (4)
この反応の温度依存性から活性化エネルギーが 0.54eV と求められました。

研究成果(3) 掃気が停止しても水素の定常濃度は爆発限界に達しないこと

高レベル廃液貯槽の掃気が停止すると、この系は疑似的に閉鎖系になりますが、Pdイオンを触媒とする水素の酸化があるので、水素の濃度が一方的に高まることはなく、定常濃度に達します。この定常濃度は次のように与えられます。
    
CL = Q/ λ   (溶液中の水素濃度)            (5)
    
CG = Q/hλ  (気相部の水素濃度)            (6)
Qは水素の生成速度で、線量率DR[kGy/;hr]、H2生成のG値 G(H2) [H2分子/100eV]、溶液の密度ρによって
    
Q = 2.88x10-2 DR G(H2)ρ μmol/l sec    (7)
と与えられ、λはH2の疑一次反応速度、
hは水素の溶解度。
        

模擬廃液の中での水素の酸化反応速度を決定する方法
      
 ここから見ることができます

   

(6)式が妥当であることは、模擬廃液をガンマ線照射する実験で確認されました。右図BCFGはPdを含む模擬廃液を異なる線量率でガンマ線照射し、気相のH2濃度が平衡に達すること、平衡濃度は(6)式に従っていることを確認した実験結果です。@は、初めに1%のH2を入れておいても、予測される平衡濃度に合流していくことを示しています。

 我々の用いた、Pdイオンを4700ppm含む模擬廃液について、G(H2)=0.020、ρ=1.32、h=0.011、λ=0.01 /sec という値(いずれも我々による実測値、λの値は亜硝酸の濃度や温度などの条件に依存するが、典型的な値を使っている)を用い、かつ実際の高レベル廃液の放射線量率を 20kGy/hr として計算すると、CG=1.36x10-4 mol/l
~0.3% in 1 atm と求められます。水素の爆発限界濃度~4%よりも十分下で定常に達することがわかります。

これまでに発表した論文の ABSTRACT はここから見ることができます